行政との関係-緊急時に備えるために

特定非営利活動邦人ワールド・ビジョン・ジャパン事務局長 片山信彦

 

教会と行政との関係を検討する場合、いくつかの視点から見る必要があろう。

第一に聖書的・神学的視点。第二に日本の状況からの視点。第三には具体的な関わり方の視点、などが考えられる。第一と第二については既に他の方や多くの著作があることから短くまとめ、ここでは、特に第三の視点を中心にワールド・ビジョン・ジャパンの経験をもとに記すことにする。

 

1.聖書的・神学的視点 (教会と国家(行政)との関係)

ルターの二王国論を始め教会と国家の関係については、其々の立場から語られてきた。特に福音派は政教分離の原則や、伝道に集中しようとしてきた経緯もあり、国家への接近、協力には慎重な立場であった。しかし、ドイツにおけるナチの台頭を許した経験や、太平洋戦争でのキリスト教会の反省から、平和の問題に関しては教会には預言者的役割があることが認識されている。このため、国家(行政)に対してはその法的な規範には従いつつ、一定の距離感を保つという姿勢が一般的ではなしか。ただし、社会的な課題解決には行政との連携が不可欠という現状から、行政の下請け的な関係にならず、協働できる事項については協働するという立場になっているのではないか。

 

2.現代日本における行政や地域・市民社会との関係

日本社会の文脈では、学校や病院、老人ホームなどの教育、医療、福祉の分野でキリスト者が大きな貢献をなしてきた。ただ、福音派はキリスト者個人としての関わりに止まり、教会としての行政や地域社会への働きかけについては消極的であったのではないか。 例えば、町内会活動に関しては、祭りなどの宗教行事を含んだり、自治会費から神社の維持管理費が出したりすることがあり、疑問や批判を行う事はあっても、地域活動への参加は消極的であったと言わざるを得ないだろう。東日本大震災を契機に、問題は問題としながらも、積極的に地域での活動に加わる必要があるとの認識が深まったのではないか。

また、ローザンヌ運動におけるキリスト者の社会的責任の認識が進み、世界をよりよく管理する事、特に社会的な課題に対しても教会は大きな責任があるとの認識が深まっている。

 

3.東日本大震災での行政との連携例(ワールド・ビジョン・ジャパンの例)

(1) 緊急期の主な支援(2011年3月から6月まで)

3月11日の地震発生から2日後の3月13日に東京から3名のスタッフを派遣した。まずは宮城県庁をはじめとする各県庁の災害対策本部を訪問し情報収集を開始した。その段階では災害対策本部も情報取集に追われていて、被害の全体的な把握や対応策についても混乱していた。次いで行政側のボランティア受け入れ等の調整窓口になる、社会福祉協議会(社協)も訪問するが、こちらも混乱状態の中で、全体的な状況の把握並びに支援物資の送り先やボランティアの受け入れ・派遣等の調整業務も混沌としていた。行政側は被害状況の把握と避難所の確保、避難所への支援物資の配布作業を優先課題として取り組んでおり、各団体やボランティアなどが自主的に個別な支援活動も開始しだした。

支援活動の全体像を把握し、必要なところに迅速に支援を届けることや、不公平な支援を行わないためには行政との情報交換が重要であり、行政(県レベル、市町村レベル)や社会福祉協議会との信頼関係の構築は大切であるであった。 特にワールド・ビジョン・ジャパンと言う団体が全く知られていない中、行政や社会福祉協議会、学校などからの信頼を得るのは大変であった。

そのような中、3月15日には南三陸から登米市に避難してきた方々への支援物資の支給を宮城県の要請を受けて実施した。

また、独自に各避難所を回り、被災状況とどのような支援物資が必要かの調査を継続し、関係する行政機関と調整しながら支援物資の調達と搬入を継続した。

また、子どもたちの心のケアーを行う事を決めて、チャイルド・フレンドリースペース設置の検討を開始した。その際、県レベル、社会福祉協議会、避難所、学校関係、そして教育委員会などとの協議は重要で、各組織との調整作業を行い、チャイルド・フレンドリースペースの設置を行った。

その後、宮城県と岩手県との協議の結果、2県の仮設住宅に入居される方々13,343世帯に、生活必需品、台所用品、掃除洗濯器具などの支給も行えた。このような大量の支援を行えたのは行政との連携の故であろう。

南三陸のすべての小・中学校、気仙沼の小学校10校、中学校3校に通う子どもたちのために、学用品セットを支援した。また、給食センターが流失してしまった南三陸町のすべての小・中学校のために、地元企業の協力を得て、おかず給食支援を実施し、6月1日に最初のおかずが届くと子どもたちから歓声が上がった。これらの活動ができた理由の一つは、行政機関との密接な情報交換を行えたことがある。

他方、行政側の視点だけでは、見えて来ない事項もあることから、支援を行っている他のNGOやNPOとも密接な情報交換や調整作業を行った。教会支援に関しては、教会を訪問して教会関係の必要を調査したが、教会への支援に焦点を当てた教団や他のキリスト教団体の活動が既に始まっており、ワールド・ビジョン・ジャパンとしては、教会への支援はそれらの方々にお任せし、むしろ一般の方々への支援を中心に行う事とした。

 

(2) 復興期の主な支援(2011年7月~)

1.子ども支援 2.雇用の確保と生計向上 3.仮設住宅での支援・コミュニティーづくり 4.子どもを守る防災支援 5.福島県被災者への支援 という5つの分野で復興支援を行った。

特に、行政や教育委員会との関係で学童クラブを臨時運営し、南三陸と気仙沼の小・中・高校に体育用品を支給し、学校給食センターを再建し、南三陸町長に子どもにやさしいまちづくりの提案書を子どもたちと共に提出した。また、ユネスコ協会連盟と協働で南三陸町640人、気仙沼市478人の小・中学生に奨学金を2014年3月まで実施した。それも教育委員会との連携があって初めて実現したことであった。

避難所や仮設住宅への各種の支援に関しては行政や社会福祉協議会との連携が不可欠であった。

更には、気仙沼の指定避難所である小・中学校16校に太陽光発電システム、井戸、防災倉庫の設置、登米市や宮古市の合計77か所の避難所に倉庫、発電機、毛布、簡易組み立てトイレなどの防災資材の支援も行政との連携で実現した。

 

4.東日本大震災から学ぶこと

東日本大震災の様な緊急時は、混乱しているとは言え行政が情報を収集し、全体的な施策を決めることから、政府・行政(ボランティアなどの調整を行うのは社会福祉協議会)との連携が必要である。特に支援の全体像を知り連携することで政府の支援策と矛盾しない支援活動ができ、支援の混乱を避けることができる。

但し、緊急事態が起こってから政府や行政との関係構築を始めることは、支援活動の遅れを招くことから普段からの情報交換が重要となる。このことは東日本大震災で、ワールド・ビジョン・ジャパンが経験したことであった。災害発生後に突然ワールド・ビジョン・ジャパンですと言っても信用されず、団体への理解を得ることに時間が必要であった。

それを解決するためには、普段からの社会的な課題を行政と共に解決すようとする姿勢を持ち、情報交換を行っておく事が重要と思える。例えば、民生委員、PTA、自治会、行政主催のイベントでのボランティア参加や行政の福祉部門や社会福祉協議会などとの関係構築を普段から行い、顔や名前を知らせておくことは大切であろう。

一方、とは言え、行政は緊急時混乱し、支援に格差が生じることも発生し、迅速な対応を行うためには、行政の決定を待ってはいられない面もある。また、行政との関係だけで支援を行うと、現場の少数の方々への支援ができない可能性(行政に支援の要請が上がってこない所への支援)があることを認識しておくことは重要であろう。更には行政の手の届かない分野や場所、規模の小さな所への支援ができない可能性もある。そのため、他のNPOやボランティア団体、教会からの情報は現場の必要を迅速に知ることができる重要な手段であり。緊急時に他の団体との窓口担当を置くことが有効である。

 

 

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