各地でのネットワークづくり

首都圏直下地震と教会防災ネットワークの必要性

クラッシュジャパン東京次期災害対策担当 栗原一芳

 

2013年12に内閣府、中央防災会議、首都直下地震対策検討ワーキンググループにより、首都圏直下型地震の新想定が発表された。発生確立は30年で70%。M7で首都圏での死者は最大で23000人。(うち火災による死者が7割の16000人)。東京、神奈川、埼玉、千葉の広い範囲で震度6強。湾岸の一部で震度7。都心を囲む木造密集住宅地域で倒壊(全壊、焼失が61万棟)と大きな火災被害(41万2000棟)、液状化が2万2000棟。経済被害は95兆3千億円(国家予算規模)となっている。ライフライン交通の被害予測は、都内5割で断水、停電 復旧に1ヶ月程度。一般道は復旧に1ヶ月。地下鉄は1週間。JRや私鉄では1ヶ月程度の運行停止。羽田空港は滑走路の一部が液状化で使用不可。帰宅困難者800万人、避難者720万人(発災2週間後)となっている。

 

災害時は同時多発的に火災、負傷者が多数発生し、消防署などの公共の助けはすぐに来られない。そうすると、どうしても歩いてゆける距離で、お互い助け合って行くことが必要になってくる。教会防災ネットワークつくりのモットーは「顔の見える防災コミュニティの創出」である。地域にある神の家族である教会が、まずお互いどう助け合っていけるのか、また、どう地域の助けになっていけるのか、関係者が顔を合わせて震災前から、話し合う必要があるのではないだろうか。

 

東日本大震災が発生してから、高い確率で東京でも巨大地震が起こることが専門家の間で言われはじめた。そこで、私は、2012年7月〜8月にかけて、都内の20教会を訪問し、震災への備えに関してのインタビューを試みた。その結果、約6割の教会で「同じ地域にある教団を超えた教会の交わりを持っていない。」、そして、同じく約6割の教会で「地元の町内会など、コミュニティとのつながりが無い。」という結果を得た。都心部に行くほど関係が希薄になる。

 

アメリカでは大災害時に教会と警察や消防が協力するのは当然の事であるが、日本ではそうではない。ある大きな神学校と教会がある付近の避難所マップにお寺や神社のマークは載っていても、教会のマークが無いのにはショックを受けた。残念ながら、行政や地域社会からは、教会が災害時に役に立つ存在として認知されていない。しかし、ネットワークを立ち上げるなら存在感が増すのではないか。行政や商店街にも話しを持って行きやすくなる。また、ネットワークがあると自分の教会に無い、人的、物的リソースを共有して活用することもできる。ネットワークがあることで災害時の支援が受けやすくなるメリットもある。

 

教会のネットワークには、①すでに牧師会があり、その牧師会の一部として防災の働きを為す。②牧師会が無かった(あるいは中止していた)ところに「防災」というテーマで新しくネットワークが始まり、実質の地域牧師会になっていったケースがある。私の関わっている2つのネットワークをご紹介しよう。1つは私が住んでいる新座・東久留米・清瀬エリア(頭文字をとってNHKと呼ぶ)。以前、牧師祈り会があったがしばらく中断していた。私が教会戸別訪問をしながらネットワークの趣旨説明させて頂き、賛同者を増やし、しだいに広がっていった。世話人3名が立てられ、3ヶ月に1度ほどミーティングを持っている。避難所マップに教会のロケーションを貼り付けた地図も作成した。ネットワーク教会主催で東北の牧師を招いて防災講演会も行っている。現在、14教会、2つのキリスト教主義学校、2つの老人ホーム・デイケアがネットワークされている。教会のネットワークは第一段階で、さらに地元コミュニティとの関係作りという第二段階へ移行することが重要である。東久留米の場合、社会福祉協議会主催で「防災情報交換サロン」が年2回開かれる。そこには市役所防災課職員、警察、消防、自治会会長などが参加している。教会防災ネットワークのメンバーも数名参加するようになった。ここで地元コミュニティの方々と「防災」というテーマで共に語り合い、知り合いになれる。社会福祉協議会にも「教会防災ネットワークNHK」が認識されている。

 

もう一つは牧師会が無かったところにネットワークが立ち上がったケース。新宿区大久保通りは通称「チャーチ・ストリート」と言われるほど教会が多い。しかし、牧師会や協力関係が無かった。私が7つの教会に呼びかけ、趣旨説明をさせて頂き、ネットワークが立ち上がった。「このようなことを願っていながら、なかなか1つの教会から声をかけるのは難しかった、栗原さんが声をかけてくださり助かった。」と言う声もあり、第三者的立場の人が声をかけるほうがやり易い状況も見えてきた。Shinjuku Okubo Street ということで「SOS教会防災ネットワーク」と名付けられた。大久保通りは韓国ショップが立ち並ぶ狭い歩道で、震災時には逃げ込むスペースもない。しかし、大きな会堂を持った教会が幾つか立ち並んでいる。教会がネットワークされ、お互いのため、そして、コミュニティのため、観光客のため、お仕えできれば素晴らしい。世話人3名は地元消防署や新宿区防災課、大久保商店街に挨拶廻りをして関係を築くことを試みている。2016年4月には淀橋教会を会場に救世軍、消防署の協力を得て、「防災フェスタ」が予定されている。コミュニティへの存在感とインパクトが強まることが期待されている。

さらに重要なのは「広域ネットワーク」である。つまり地域ネットワークのネットワークである。2015年6月30日にはOCCで「教会防災広域ネットワーク」の初会合が持たれ、東京の8つのネットワークから代表者が参加、有意義な分かち合いの時を持った。東京は地形により、災害の出方が違う。江戸川区、墨田区、足立区の3区は、川の氾濫による浸水地区だ。3区から脱出するしか助かる道がない。他の地域との連携が非常に重要になってくる。米国ホイートン大学の人道的災害研究所(HDI)のサポートにより、東京のネットワークの所在地や世話人名簿が見られるサイトも立ち上がっている。

 

3.11の経験を無駄にしないためにも、プロアクティブに次期災害に備えてゆく必要があるのではないか。元DRCnet事務局長の高橋和義師は被災地で神がなさっていることを見ながら、ビデオインタビューに答えて「3つの壁」が崩されたと語っていた。1つは教団の壁。皆が被災者となり、違いを超えて助け合う姿勢が見られたという。2つ目は日本と世界の壁。これほど多くの祈りが東北に注がれ、これほど多くのクリスチャンボランティアが世界から東北に来たことがあっただろうか。そして、3番目が教会と地域コミュニティの壁。教会が物資支給センターになったりして、地域コミュニティにお仕えしてゆく姿勢が見えてきた。神は大惨事の中でも素晴らし栄光を現してくださった。それならば、次に震災が予測されている東京で以上の3つの壁を先取りして壊して行けないものだろうか。ネットワークがあれば、発災後、より効果的にお互いを助け、またコミュニティに仕えてゆくことができると期待できる。

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